VPFスキームについての概説

※11/24シンポジウム時に配布された資料より 
(作成者の許可により転載させて頂きました)


VPFスキームによるデジタル上映設備導入について(概説)


【1】 映画館のデジタル化とは―映像・音響データを取り込むサーバーとそれをスクリーン映すDLP(専用プロジェクター)、およびそれに付随する音響、電機設備を設置し、DCI規定に則ったデジタル・データによる上映を可能にする設備を導入することを指す(一部劇場で導入されているプロジェクターとブルーレイ、DVDによる上映に関わる設備とはまったく異なる設備であることも再確認)。

【2】 DCI規定とは―映画のデジタル・データの統一フォーマット。ハリウッド9社(Universal、Paramount、Disney、SPE、FOX、WB、MGM、LionsGate、Weinstein)が設立したDigital Cinema Initiative LLCが策定した映画のマスター制作、配給、上映のための技術要求規格。ハリウッド・ローカルの規定に過ぎなかったDCI規定から現在はSMPTE(米国映画テレビ技術協会)採用の米国内規格になっている。また今後さらにITU(国際電気通信連合)が認める世界標準規格に昇格することも予測されている。この規定は35ミリフィルムに変わる映画の統一フォーマットを目指すこととパイラシー問題への対応(コピー防止、海賊版流出防止)のために策定されている。

【3】 デジタル上映までの流れ― デジタル上映をするためには映画作品をデジタル・データ化したDCP(DigitalCinemaPackage)とそのデータを上映認可するためラボから発行される一種のパスワード、KDM(KeyDeliveryMessage)が必要。シネマ・サーバー一機ごとのシリアル・ナンバーに対応したKDMが発行される。このKDMにより、その映画が上映された場所、日時はすべて認識され、仮に映像がコピーされた場合、それがどの映画館のどの日時にコピーされたがわかる仕組みになっている。

【4】 劇場のデジタル設備導入にはいくら必要か―基本設備であるシネマ・サーバーとDLP(専用プロジェクター)で約700万〜1000万円。映画館の現有の設備(音響設備、映写室の環境など)により導入のための経費は多少異なる。

【5】 VPFスキームとは―VPF=Virtual Print Fee(仮想のプリント経費) の略。 高額なデジタル設備費を劇場だけが負担するのではなく、配給会社も応分の負担をするためにアメリカで始まった金融スキーム。各VPFサービサーにより多少の差はあるが、概ね上記設備導入費の1/3を映画館が、2/3を配給会社が負担するという費用負担比率になっている。

【6】 なぜ配給会社が応分の負担をするのか―上映素材がフィルムからデジタルに移行することにより配給会社サイドは大幅な経費節減につながるのに対して、映画館サイドはそれにより基本的に動員増など売上の向上には直結しない。例)本編素材を100本とした場合、200,000円〜250,000円×100=20,000,000円〜25,000,000円の経費が節減され、さらにフィルム保管費、配送経費などが削減対象となる。

【7】 配給会社からの費用負担金の徴収方法は― 1スクリーンに1作品上映する毎に配給会社はVPFサービサーに規定の料金(設備利用料)を支払う。サービサーにより異なる料金システムを採用しているが、新作を上映する際、1スクリーン、1作品の上映毎に76,500円〜90,000円を支払う。例)100スクリーンで一斉公開された場合、フィルム上映での素材費用は2,000万〜2,500万円であったのに対し(上記参照)、デジタル上映の場合は765万〜900万円。

【8】 設備利用料からわかることは

・ 元来VPFスキームは、配給会社としては上映素材を50〜500本を用意し一斉公開する大規模公開を想定しており、映画館としてはそのような一斉公開作品を中心に編成している劇場を想定して成立している。

サービサーによっての試算方法に差異はあるが、年間1スクリーンあたり10〜13作品の新作公開(1週目の利用料)があることを前提に、これを7〜10年続けることで機材費(サービサーにとって金融機関からの借入金)を償還していく、というのがベースにある。

・ VPFサービサーとの契約は映画館と締結されるため、ある劇場が「ソニーテクノサポート」と契約を結んだ場合、配給会社サイドはその劇場に対して「ソニー〜」の料金体系に則った設備利用料を支払うこととなる。

・ 小中規模作品の配給会社の利用を想定し、上映回数、上映が始まる週によって利用料減額のシステムが採用されている。例)「デジタルシネマ倶楽部」の場合、ある地方都市で東京公開後、7週目に公開する作品では配給会社が支払う利用料は7,650円で済む。

・ 「ソニーテクノサポート」「ジャパンデジタルシネマサポート」の場合、最多トータル・スクリーン数の週(=ブッキング数が最大になった週)を1週目と認識するため、仮に7週目が最多トータル・スクリーン数であった場合、1〜6週目も1週目の利用料を支払うことになる。

【9】 概説のまとめ―VPFスキームによる映画館のデジタル化は高額な設備費を映画館だけに負担させるのではなく、設備が導入されることにより利益を得る配給会社にも応分の費用負担を課すシステムである。しかし、少ないプリント本数で順次公開していく単館系作品の配給会社にとってはデジタル化による恩恵はほとんどなく、VPFサービサーから請求される設備利用料は想定する興行収入によっては割高になることさえある。一方、映画館としても地方の独立系映画館のように通常東京の公開から4〜7週後に公開しているような場合(設備利用料が平均しても20,000円を下回るような映画館の場合)、そもそもVPFスキームによる設備費回収が不可能なためこのスキームからは除外されることとなる。

※参考「日本におけるVPFの仕組みについて」文化通信 8/3付
http://www.bunkatsushin.com/varieties/article.aspx?id=1209

※今のところの問題点のまとめについてはこちら↓
http://d.hatena.ne.jp/cinerevo/20111127/p2

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