9月末閉館 CINEとかち

劇場閉館も「上映は続く」 帯広「CINEとかち」の挑戦
2012.9.2 産経(北海道・東北版)

http://sankei.jp.msn.com/region/news/120902/hkd12090207010000-n1.htm

 北海道十勝地方の人々に幅広く映画を提供してきた帯広市の「CINE(シネ)とかちプリンス劇場」が、9月いっぱいで閉館する。建物の老朽化が理由だが、運営母体のNPO法人「CINEとかち」では10月以降も新作の上映を続けるという。本拠地となる劇場はまだ決まってはいないが、代表を務める豊島(とよしま)晃司さん(60)は「仮にひと月に1日になろうが、続けていくことが大事だと思っている」と決意を口にする。(札幌支局 藤井克郎)

 CINEとかちプリンス劇場を取材で訪れるのは、今回が2度目のことだ。前回は昨年2月の取材だったが、高校教師のかたわら映画館運営に携わってきた豊島さんは、定年を前に3月で学校を退職し、今後は映写機を担いで近隣の町村を回ったりもしてみたい、と夢を語っていた。

 それから1年半。昭和28年に建てられたビルの老朽化による立ち退きの話は、すでに昨年夏ごろから出ていたという。建物すべてを取り壊すのではなく、2階の劇場部分の防災施設が不備なため、劇場だけを閉鎖すると告げられた。

 「広く告知して移転先を探したところ、1年で13カ所の候補地の情報が寄せられた。そのうちの5軒を建築家ら専門家の目で見てもらったのですが、建築基準法に引っかかったり、お金がかかりすぎたりで、どこもだめだった。ここが決まったときは降ってわいたような話だったので、ドジョウは2匹もいないと思いつつも、安易に考えていたのかもしれませんね」と豊島さんはため息をつく。

 もともと「CINEとかち」という自主上映サークルを主宰していた豊島さんがプリンス劇場を本拠地にすることになったのは、運に恵まれた面もある。上映会場として利用していた帯広市内の老舗映画館が閉館することになり、同じ興行会社が運営していたプリンス劇場を引き継いでほしいと頼まれたのだ。平成15年のことだった。

 当初はひと月に4日だけ上映するといった変則的なスケジュールで、スタッフもボランティアに頼るしかなかった。ようやく一昨年の暮れから年末年始も休まずに上映するようになり、現在は1日2〜3作品を2〜3週間で入れ替えるほど本数も増えた。それが10月からは、また以前の浮草暮らしに戻らなければならない。

「戻ることはいやじゃない、と表面的には言っているものの、毎日お客さんと接して会話することがなくなることの寂しさはありますね。公共のホールを借りてひと月に1、2日の上映になる、という現実を受け止めていかなければならないとは思うのですが、でもやはり…、という気持ちです」と豊島さん。

 活動を続けるために、すでに来年の春ごろまでの上映作品も買い付けた。1カ月で1本と作品数は激減するが、12月には社会派ドキュメンタリーの「死刑弁護人」をかけるかと思えば、来年1月には異色コメディーの「ローマ法王の休日」と幅広さは相変わらずだ。

 「本当にいろんな国のいろんな人が映画を作っている。自分の知らない世界に触れたときの驚き、それが映画の魅力でしょうね。十勝で見ることのできる作品をどんなに少なくなっても続けていく、ということに主眼を置きました」。帯広にはほかに「シネマ太陽帯広」という5つのスクリーンを有するシネコンがあるだけで、今後も映画文化に触れる貴重な機会になることは間違いない。

 ホール上映の準備を進める一方、新たな本拠地探しも引き続き行っていく。帯広市や帯広商工会議所に働きかけたり、市民出資型の劇場を模索するなど、新たな運動が必要かもしれないとも考えている。

 「経済界や市の強力なバックアップをどう構築していくか、まだまだ課題はあります。美術館とか本屋さんなどと同じで、映画館は街から消えてはならない大事な場所だと思う。流浪の民は仕方がない、と言いつつ、やはり誰かがぐいぐい進めていかないと、映画館はなくなっていきますからね。これまで10年走ってきましたが、また10年、さらに走り続けます」

 通常の番組は9月28日で終了し、29、30の2日間は各年度で好評だった作品の特別上映に加え、広尾町更別村足寄町など十勝の各町村にかつてあった映画館の関係者を集めて座談会を開く予定だ。「その人たちの思いを受け止めて次の世代に受け継いでいきたいし、それが上映会を続ける原動力にもなるのかな、と思う。一度はさよならになるんだけど、そこからまた始めよう、となったらいいですね」と、豊島さんは楽しみにしている。

CINEとかちプリンス劇場 http://cinetokachi.net/